不動産研究 59-4

第59巻第4号(平成29年10月) 特集:中国経済と不動産市場の現状と展望

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特集:中国経済と不動産市場の現状と展望

中国経済の現状と展望
 -実体経済安定の中で増大する金融リスク-

財務省 財務総合政策研究所 副所長 田中 修

 中国の実体経済は昨年10-12月期以降好転しているようにみえるが、その基礎は必ずしも盤石ではない。工業は、今後自動車生産の伸びが続くかどうか判然としない。消費は、個人所得の鈍化が消費にマイナスの影響を与える可能性がある。投資は、不動産市場コントロール政策により、再び不動産開発投資が減退することになる。外需は、保護貿易主義の動向が予断を許さない。
 金融面でも、地方政府・国有企業の債務問題、住宅市場のバブル等のリスク問題が発生している。
 これらの状況に対し、習近平指導部は、一方で安定成長、社会の調和・安定の維持と金融面の安全保障を図るとともに、他方で経済構造調整・経済構造改革を着実に進め、一定の成果を得るという戦略を採用している。この推進には、習近平総書記の強い政治的リーダーシップが不可欠である。

【キーワード】区間コントロール、安定と前進、サプライサイド構造改革、金融リスク

中国不動産市場の実態分析と展望

中国社会科学院 都市発展と環境研究所 執行研究員 董 昕
 中国社会科学院 都市発展と環境研究所 副研究員 王 业强
 中国社会科学院 都市発展と環境研究所 執行研究員 尚 教蔚

 2016年、中国の不動産市場では、不動産在庫削減を背景に、新しいラウンドの価格高騰期を迎えた。重点都市の不動産市場の顕著な過熱現象を是正すべく、中央経済工作会議では、「住宅は国民が住むためのものであり、投機に使われるものではない」という認識を表明し続けてきた。国慶節前後、中国の各地方政府は不動産市場に対するコントロール力を一層強化し、不動産市場の安定かつ健全な発展を確保しようとしている。2017年を展望してみると、世界経済成長の先行きは依然として楽観視できない状態が続くものと考えられる。また、世界各国の通貨緩和傾向が広まりつつあり、資産不足や資産バブル、マイナス金利といった状況が国際市場において一般現象として存在すると見込まれる中、さらに、各国資本市場の相次ぐ波乱によって、中国国内資本市場のリスクがいっそう高まっていくものと見込まれる。リスク・コントロールは間違いなく、2017年度の中国不動産市場のメイン・テーマになる。不動産市場では、細分化現象がより強力に進化し、部門別コントロール、及び都市事情に適応する政策の実施は、依然として不動産市場コントロールの基本政策であり、都市によってはマーケット・チャンスが存在する可能性があることを示している。

【キーワード】中国、不動産、市場実態、予測

中国の不動産関連ビジネスの実態と今後の課題
 -中国での日系企業のビジネスチャンス-

不動研(上海)投資諮詢有限公司 董事総経理 粕谷 孝治

 これまで中国における日系企業による不動産開発でのビジネスは、主に日系企業や日系企業の駐在員を対象としたオフィスビル、サービスアパートなどのサービス提供を目的とした事業からはじまり、その後中国経済の成長、中国人の所得の向上を背景に、当地でのアッパー層あるいはアッパーミドル層をターゲットとした商品住宅市場での分譲事業がその中心であった。
 住宅事業に関しては「量より質」へと中国社会が変化する中で、現在、中国社会の抱える「少子高齢化」問題や新たな住宅市場として注目される「住宅賃貸市場」の整備・拡充などを通じた、日系企業のビジネスチャンスの可能性に加え、近年中国の富裕者層の関心の高い「海外不動産投資」における背景、現状、(対日)インバウンド不動産投資ビジネスへの期待についても併せて触れる。

【キーワード】中国、シニア、賃貸住宅、インバウンド、ビジネスチャンス

調査

全国のオフィスビルストックの状況
-「全国オフィスビル調査(2017年1月現在)」の結果をふまえて-

富繁 勝己

 日本不動産研究所は、2017年1月に全国オフィスビル調査を実施し、2017年9月13日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。

  • 2017年1月現在のオフィスビルストックは、三大都市・主要都市合計で11,193万㎡(8,640棟)となりこのうち2016年の新築が135万㎡(61棟)と150万㎡を下回り、2016年の取壊しは93万㎡(96棟)であった。今後3年間のオフィスビルの竣工予定は526万㎡で、そのうち東京区部が7割以上を占める。
  • 新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、三大都市・主要都市合計で2,872万㎡(2,547棟)と同ストックの26%を占める。都市別では福岡(40%)が4割を超え、札幌(39%)、京都(36%)、大阪(32%)と続いて多い。
  • 今回から調査を開始した地方都市(75都市)のオフィスビルストックは、合計で1,482万㎡で東京区部の約2割、大阪よりやや少ない規模となっている。

【キーワード】全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊

論考

日本の地価とバブルについての理論的考察
-高度成長期日本の土地神話と壮大なバブルについての試論-

中島 正人

 バブル期の日本の理論地価については、収益還元価格を上回る部分があるが、単純な収益還元価格では、バブル期以降の長期の地価下落や、金利が低下する中で地価の上昇が見られない点について説明が困難である。そこで、筆者はビル賃料統計から賃料の長年にわたる実際の上昇率を割り出し、その上昇率が将来にわたり永続的に上昇が見込める地代の期待成長率であるとして、バブル期前のファンダメンタルズ価格を求め、本来のファンダメンタルズ価格と乖離していたと仮定したところ、現実の地価水準の下落に近い結果を導き、地価動向がGDPトレンドを突き抜けて下落するかという点について、説明が可能となった。また、長期金利に、バブル期以前について地代の期待成長率を加味すると、実質的に長期金利を引き下げる効果をもたらすため、バブル初期の長期金利の下落が理論的には急激な地価の上昇をもたらし、バブル期以降の金利低下局面においても地価上昇が生じないことが説明できた。あわせて、バブル期以前の地価水準がなぜ収益還元に基づく理論地価よりも大幅に高かったのか、という点についても説明することが可能となった。

【キーワード】バブル、理論地価、日本の高度成長、地代の期待成長率、長期金利、地価高騰、長期下落
【Key Word】Japan’s Bubble, Theoretical Land Prices, Japan’s High Growth, Steep Rise, Long Decline

東京都心3区におけるオフィスビルのディスカウントレートに関する実証的研究

金 東煥・小松 広明

 本稿では、オフィスビルのディスカウントレートがリスクフリーレートとリスクプレミアムで構成されることに着目して、リスクフリーレートとリスクプレミアムを表す経済指標(国債金利、GDPギャップ、消費者物価指数)を用いて当該指標との長期均衡のディスカウントレートを求める。当該レートに各経済指標が与える影響程度を分析して、ビルディングブロック方式によるディスカウントレートの算出可能性を検討する。結果、東京都心3区のオフィスビルのディスカウントレートは、当該長期均衡関係に基づいて、国債金利の1%上昇によって12%上昇し、GDPギャップと消費者物価指数の1%上昇によって各々0.4%と2.0%下落する。加えて、2017年1四半期の長期均衡のディスカウントレートは国債金利等の各経済指標による影響(1.1%)とその他のファクターによる影響(2.54%)の合計(3.64%)で示せる等、ディスカウントレートのビルディングブロック方式による算出が検討された。

【キーワード】ディスカウントレート、リスクフリーレート、リスクプレミアム、VECモデル、オフィス市場
【Key Word】Discount Rate, Risk Free Rate, Risk Premium, VEC Model, Office Market

判例研究(105)

不動産鑑定士の法的責任
-宇都宮地裁平成28年3月17日判決-

安部 康広

 原告である地方自治体が、公共用施設の用地取得のために不動産鑑定業者の代表取締役で不動産 鑑定士である被告に土地の鑑定評価を依頼し、その鑑定結果に従って土地を取得したものの、被告 による鑑定結果に重大な誤りがあったとして、被告に原告が求める損害額の9割相当額の損害賠償 が認められた事例。

The Appraisal Journal Spring 2017

外国鑑定理論実務研究会

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