不動産研究 61-1

第61巻第1号(平成31年1月) 特集:シェアリングエコノミーと不動産市場

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第61巻第1号

新しい年を迎えて

特集:シェアリングエコノミーと不動産市場

政府におけるシェアリングエコノミー推進について

内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室/シェアリングエコノミー促進室 参事官補佐 石原 一樹

 超少子高齢化社会に突入し、社会課題の解決に向けて投入可能な政策資源が減少していくなか、多様化・複雑化する課題の解決手段のひとつとして、シェアリングエコノミーは期待されている。政府では、シェアリングエコノミーの健全な発展のため、「シェアリングエコノミー推進プログラム」を公表し、それに基づき様々な取組みを行っている。

【キーワード】シェアリングエコノミー、社会課題の解決、地方創生、経済の活性化

シェアリングエコノミーの進展と都市
-情報社会化の進展とデータ活用の観点からの考察-

国際大学 グローバル・コミュニケーション・センター 准教授・主幹研究員 庄司 昌彦

 発展を続けているシェアリングエコノミーの進展はさまざまな情報通信技術が支えているが、情報技術を活用した都市として論じられている「スマートシティ」とは、必ずしも外見が「未来的」な都市を作ることではない。国内外のシェアリングシティ等の事例や関連するビジネス・社会動向を「場所のシェア」や「移動のシェア」の観点から考察すると、シェアリングシティとは、仕事も生活も活動に応じて最適な場所を選んで行うことや、これまでの手段や制度などの枠組みを超えて最適な移動手段を使うこと等を通じて人々の生活を豊かに快適にしていくことであるといえる。そしてその実現のためには、都市や地域の多種多様なデータを誰もが自由に利用可能にし、「高濃度」化していくことが求められる。

【キーワード】スマートシティ、シェアリングエコノミー、シェアリングシティ、Activity Based Working、Mobility as a Service
【Key Word】Smart City, Sharing Economy, Sharing City, Activity Based Working, Mobility as a Service

不動産業界におけるシェアリングビジネスの進展

公益財団法人日本賃貸住宅管理協会

 現在、我が国では少子高齢化や首都圏への人口の一極集中等により、急速に空き室が増加している。その一方で、シェアリングエコノミーという概念により空き室を収益化する者が次々に出現しており、彼らは空き室に苦しむ不動産会社とシェアリングエコノミー会社が接点を持つことで、不動産市場にイノベーションを起こすことができると考えている。本文では、賃貸管理の業界団体として、当協会がシェアリングビジネスにどのようにアプローチしているか、賃貸住宅市場の現状を織り交ぜながら論ずる。

【キーワード】IT、シェアリングエコノミー、空室、賃貸管理、民泊

ビジネスイノベーションスペースの新たな潮流とその経済価値

三菱地所株式会社 ビル営業部 戦略営業ユニット ユニットリーダー 専任部長 玉木 慶介
 三菱地所株式会社 xTECH営業部 営業・新施設開発ユニット 平井 瑛

 近年のビジネスイノベーションスペースはスタートアップ企業に止まらず、イノベーションの創出機会を求める大企業からも注目されている。その結果、これらニーズの受け皿となるサービス付きオフィス事業も変革・発展の時期を迎えており、従来の資金やスペースの効率化に加え、知識や情報のシェアリング等、コミュニティ機能を提供する施設が増加している。これら施設の利用料は一見すると通常のオフィス賃貸料に比して高額であるが、利用者に提供する各種付加価値がこれを正当化している。本稿ではまず、これら付加価値の源泉とその経済合理性について掘り下げていく。また後段では、三菱地所をはじめとするディベロッパーが担う「街づくり」とこれら施設が有する相乗効果について、開発やポートフォリオへの波及効果等の観点から考察していく。

【キーワード】イノベーション、シェアリング、シェアオフィス、エコシステム、コミュニティ

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(2018年9月末現在)をふまえて-

平井 昌子

 当研究所は2018年9月末現在の「市街地価格指数」を2018年11月27日に発表した。「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2018年3月末比、以下同じ)0.3%となり、26年ぶりに上昇に転じた前期に続いて上昇する結果となり、回復基調が鮮明となった(前回0.2%)。
  • 地方別の地価動向は、一部の地方を除き、全般的に堅調な動きとなっている。「近畿地方」や「九州・沖縄地方」等、国内外からの観光客で賑わう地域の商業地では上昇傾向が続いている。「東北地方」や「関東地方」等、地価が上昇傾向にある地方では上昇が続く一方、「北陸地方」や「四国地方」では、下落傾向が続いているが下落率は縮小している。
  • 三大都市圏の地価動向を全用途平均で見ると、「東京圏」は前期比0.9%上昇、「大阪圏」は同0.6%上昇、「名古屋圏」は同0.5%上昇となり、上昇傾向が続いている。
  • 「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比1.6%上昇、商業地で同2.4%上昇、住宅地で同0.8%上昇、工業地で同1.7%上昇となり、商業地を中心に上昇傾向が継続し、堅調な動きとなっている。
    ※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
     最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
     東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
     大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
     名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
     六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について
-「全国賃料統計」の調査結果(2018年9月末現在)をふまえて-

富繁 勝己

 当研究所は2018年9月末時点の「全国賃料統計」を11月27日に公表した。オフィス賃料は、全地点の4割強が上昇で、1996年の調査開始以来初めてすべての地方で上昇となり、全国平均は3.4%上昇と上昇幅が拡大した。今回の上昇を2007年のファンドバブル期と比較すると、上昇地点数は上回ったが、5%以上の上昇がファンドバブル期の20地点に対して、今回は8地点と少なく、薄く広い範囲の上昇といえる。共同住宅賃料は、全地点の約8割が横ばいで、全国平均は昨年と同じ0.1%上昇であった。1年後の2019年9月末時点についてオフィス賃料は三大都市圏等で上昇が継続し、全国平均は3.0%上昇と上昇幅がやや縮小、共同住宅賃料は今期と同様に横ばい傾向が継続する見通しである。

【キーワード】全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測
(2018~2020年、2025年)・2018秋について

金 東煥・富繁 勝己・佐野 洋輔

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2018〜2020年、2025年)・2018秋」を10月25日に公表した。まず成約事例を多数収集し、共益費込賃料のヘドニック分析を行い、その結果を利用してヘドニック型の賃料指数を作成する。次に実質GDP、法人企業の売上高等を使ってオフィス床の需要量及び供給量、賃料指数を求める式を推定し、オフィス賃料変動モデルを構築する。上記モデルで、日本経済研究センターのマクロ経済の予測結果、新規供給量の予測結果等を前提に、2018〜2020年及び2025年の賃料及び空室率の動向を予測する。予測結果は、①東京のオフィス市場は、2018〜2020年の大量供給の多くが事前に内定される等の強い需要に起因して、空室率が2%〜3%台の低い水準に推移し、賃料は上昇する。2025年まで空室率はわずかに上昇し、賃料は微減する。②大阪のオフィス市場は、新規供給が少ない状況が続き、空室率2%台に低下し、賃料上昇が続く。2025年は空室率が上昇するが賃料は概ね横ばいで推移する。③名古屋のオフィス市場は、新規供給が少ない状況が続くため、空室率が2%台に低下し、賃料は上昇傾向。2025年空室率は上昇、賃料は横ばいで推移する。

【キーワード】賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

最近の不動産投資市場の動向
-第39回不動産投資家調査結果(2018年10月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

 当研究所は、「第39回不動産投資家調査」の結果を2018年11月27日に発表した。
 調査結果(2018年10月)の概要は以下のとおりである。

  1. 不動産投資家の期待利回りは、投資市場の過熱を懸念する声もある中、一部の調査地区で前回比「横ばい」もみられたが、緩和的な金融環境の下、多くの用途・地区で0.1〜0.3ポイント程度の低下となった。オフィスは、代表的な地区である「東京」の「丸の内、大手町」が2期連続して「横ばい」となったが、その他の地区の多くは0.1ポイント程度低下した。また、地方都市でも多くの地区で低下傾向が続き、「札幌」や「福岡」は0.2〜0.3ポイントと大きく低下した。不動産投資市場でもインバウンド消費の影響は大きく、これと関連性の高い都心商業施設やホテルの期待利回りは、多くの地区で低下した。特に、都心商業の「銀座」の期待利回りが、前回比0.1ポイント低下の3.4%となり、2003年の調査開始以来最も低い水準を更新し、はじめて「丸の内、大手町」を下回る結果となった。
  2. 不動産投資家の今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」の回答が90%で前回調査と同じであった。一方、「当面、新規投資を控える」の回答は7%で前回調査より1ポイント低下した。米中貿易摩擦など世界経済に対する先行き懸念が一部で指摘されているが、国内の不動産投資市場に直接的に影響するネガティブ材料は少なく、不動産投資家の積極的な投資姿勢が維持された。

【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

論考

2019年の不動産市場
-マクロ経済動向から占う不動産市場の見通し-

吉野 薫

 2018年の我が国の不動産市場を振り返ると、底堅い景気回復に支えられて活況が継続した一方、不動産市場にバブル的な歪みが生じている様相は確認できず、いわば「適温相場」が継続したと総括することができる。2019年においても、マクロ経済の下振れリスクは相応に高まっているとはいえ、景気後退期への突入が差し迫っているとの証跡は認められず、引き続き「適温相場」が継続する公算が高い。

【キーワード】適温相場、企業の設備投資、通商戦争、消費税率の引き上げ
【Key Word】Goldilocks, capital investment, trade war, consumption tax rate hike

The Appraisal Journal Summer 2018

外国鑑定理論実務研究会

資料

・2018(平成30)年[第60巻第1号~第60巻第4号]目次一覧

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