不動産研究 61-2

第61巻第2号(平成31年4月) 特集:アメリカの経済と不動産市場

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第61巻第2号

特集:アメリカの経済と不動産市場

米国経済の中期見通し
-成長力低下と所得格差拡大で内向き姿勢強まる22080-

株式会社日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 研究員 井上 恵理菜

 足許の米国経済は堅調な景気回復が続いている。一方、通商政策や移民政策などにおけるトランプ政権の内向き姿勢が米国経済の足枷となり始めている。中期的な先行きを展望すると、新興国の成長が続くなかで、米国の相対的な成長力が低下するため、世界に占める米国の経済規模は縮小する見通しである。さらに、所得の二極化が進み、社会的な分断が大きくなると予想される。米国は、国内での課題解決を優先せざるを得なくなり、内向き姿勢が強くなるだろう。米国が国際的な課題に対して協調を先導していく立場となることは期待しにくい。

【キーワード】米国経済、トランプ政権、貿易摩擦、潜在成長率、所得格差

米国不動産テックの攻防
-不動産テックの成長によって変貌する米国不動産業界-

三井不動産株式会社 開発企画部 北崎 朋希

 テクノロジーを活用して賃貸や売買といった取引業務、物件や資産などの管理業務、市場調査や不動産鑑定といった評価業務の変革を契機に、従来の不動産ビジネスの事業モデルを大きく変える不動産テックが米国不動産業界で存在感を高めている。本稿では、なかでもコワーキングオフィス、クラウドファンディング、住宅リスティングサービスの最新動向を概説し、急成長した不動産テック大手による今後の展開を論じるものである。

【キーワード】不動産テック、コワーキングオフィス、クラウドファンディング、住宅リスティングサービス

米国REIT市場における新たな潮流
-プロパティセクターの多様化と新たなプロパティタイプのビジネスモデル-

EY新日本有限責任監査法人 不動産・建設・ホスピタリティセクター プリンシパル 四釜 宏吏

 現在世界全体の約63%を占める米国REIT市場は、リーマンショック以降世界での市場比率を増し、世界のREIT市場を牽引している。米国REIT市場が成長を続けている一因として、各時代の変遷に対応しつつ、プロパティセクターを段階的に発展させてきたことがあげられる。歴史的に過去5回のREIT市場サイクルにおいて、モーゲージREITからエクイティREIT、エクイティREITでの分散型から特化型への移行、特化型での差別化、細分化によりプロパティセクターの多様化が図られた。特にリーマンショック以降は、新たな成長産業のプロパティをREITに取り込むことに成功している。本稿では、米国REIT市場におけるプロパティセクターの多様化の実態とそれに対応したREIT制度改正を考察する。さらに、新たなタイプのプロパティとして、通信基地局、データセンター、ヘルスケア、セルフストレージ、森林、インフラ系、その他特殊系プロパティなどの特徴やビジネスモデル(REITの仕組みと収益モデル)について解説する。

【キーワード】プロパティセクターの多様化、新たなプロパティタイプのビジネスモデル
【Key Word】property sector diversification, business model, new property types

米国不動産鑑定業界の最近の動き
-連邦政府による規制と不動産テックの影響-

一般財団法人日本不動産研究所 北米連絡員(在カナダ) 藤木 一彦

 After experiencing two financial crises, i.e., the savings and loan crisis from 1980 to 1989 and the subprime mortgage crisis from 2007 to 2010, the U.S. real estate appraisal industry went through an overhaul in terms of its Federal regulatory framework. For example, the Appraisal Subcommittee of the Federal Financial Institutions Examination Council was established in 1989 in order to regulate the real estate appraisal industry. In the same year, the Uniform Standards of Professional Appraisal Practice was adopted by the Appraisal Foundation, an appraisal standards setter. In recent years, the appraisal industry has been no exception to embrace PropTech. For instance, young appraisers and technology experts founded Bowery Valuation to streamline the valuation of multifamily buildings by using new technologies.

【キーワード】 不動産鑑定評価、金融機関改革救済執行法、ドッド・フランク法、不動産テック、自動評価モデル
【Keywords】Real estate appraisal, FIRREA, Dodd-Frank Act, PropTech, AVM

調査

田畑価格及び賃借料の動向
-2018(平成30)年調査結果をふまえて-

松岡 利哉

 2018年10月30日に「田畑価格及び賃借料調(2018(平成30)年3月末現在)」を公表した。本稿では、公表した調査結果に加えて、その後分析した内容を紹介する。

【キーワード】田畑価格、田畑賃借料

山林素地及び山元立木価格の動向
-2018(平成30)年調査結果をふまえて-

松岡 利哉

 当研究所が2018年10月30日に公表した2018(平成30)年3月末現在の「山林素地及び山元立木価格調」によると、国産素材(丸太)需要が用材及び燃料材ともに堅調で山元立木価格は、2年連続の上昇となった。しかしながら、収入面の主力であるA材(製材用丸太)価格が伸び悩む状態が継続しており、用材林地の投資採算が好転するには至っていない状況である。
 本稿では、「山林素地及び山元立木価格調」の調査結果に加えて、その後分析した内容を紹介する。

【キーワード】山林素地価格、山元立木価格、素材(丸太)価格

近年の中古マンション市場の動向と今後の展望
-「不動研住宅価格指数」の調査結果(平成30年12月時点)をふまえて-

曹 雲珍

 「不動研住宅価格指数」は、当初、2011年4月26日より株式会社東京証券取引所から「東証住宅価格指数」の名称で公表されたものであった。同指数は、2014年12月30日の公表をもって株式会社東京証券取引所が更新を終了することになり、その後日本不動産研究所が引き継いで、2015年1月27日から現在の名称で公表している。
 2019年2月26日に公表した昨年12月時点の「不動研住宅価格指数」によると、首都圏は91.69ポイントで2ヶ月連続上昇、2007年以降の最高値となった。地域別では、東京都は100.64ポイントで、2015年12月からミニバブル期の最高値である2007年10月の94.90ポイントを上回り、2018年に入ってからも概ね上昇傾向が続き、12月時点は2007年以降の最高値となった。神奈川県は87.00ポイント、千葉県は70.50ポイント、埼玉県では73.94ポイントとなった。

【キーワード】住宅価格指数、リピート・セールス法、中古マンション、市場動向

判例研究(108)

店舗と共に契約された駐車場土地の更新拒絶と権利濫用
-カラオケ店舗と共にその駐車場として賃貸された土地の
賃貸借契約の更新拒絶が権利濫用に当たるとされた事例-
(福岡高裁平成27年8月27日判決・判例時報2274-29)

塚田 栄二郎

 建物賃貸借契約に係る建物の敷地となっていない部分の土地についても、位置関係や用途等から実質的に全体として賃貸借の対象となった旨判示し、また、当該建物と事実上一体として賃貸された建物の所有を目的としない賃貸借契約に係る土地について、これに対する更新拒絶ひいては土地の明渡請求が認められることになれば、建物賃貸借契約に係る借地借家法の趣旨に反するとして、更新拒絶を否定した事例を紹介する。

【キーワード】借地借家法の適用範囲、借地権、借地借家法の適用のない土地賃貸借、権利濫用

The Appraisal Journal Fall 2018

外国鑑定理論実務研究会

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