不動産研究 62-2

第62巻第2号(令和2年4月) 特集:欧州の不動産

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第62巻第2号

特集:欧州の不動産

欧州のREIT制度及び市場の概要と動向

株式会社グローバルREITリサーチ 代表取締役 四釡 宏吏

 2019年10月末時点において、欧州のREIT市場は11カ国で開設され、株式時価総額は約27兆円、銘柄数は243社である。各国別には上位5カ国(英国、フランス、スペイン、オランダ、ベルギー)で全体の95%を占めている。一方、下位6カ国(ドイツ、アイルランド、ギリシャ、イタリア、ハンガリー、ブルガリア)で全体の5%を構成している。このように、欧州ではREIT市場の2極化が進んでいることが特徴的である。つまり、各国の経済規模や市場の創設の時期にかかわらず、REIT市場が発展している国とあまり発展していない国とに分けられる。2極化の主な要因として、①プロパティセクターの多様化、②政策的対応、③隣国REITおよび自国の不動産ファンドとの競争、などが挙げられる。また、欧州のREIT制度を類型化すると、内部運用型を主体とし上場が求められた法人型REITとまとめることができる。本稿では欧州REIT 11カ国の市場発展の歴史、市場規模、プロパティセクター、REIT指数動向などの特徴に焦点をあて解説する。

【キーワード】 欧州REIT、市場時価総額、銘柄数、プロパティセクター
【Key Word】 Europe, REIT regimes, REIT markets, the market capitalization, property sector

ヨーロッパにおける土地のリサイクル
-ブラウンフィールドの再生-

新潟大学 工学部 人文社会科学系 准教授 寺尾 仁

 本研究は、ヨーロッパ7ヵ国のブラウンフィールド再生の比較研究を行うことを目的としており、とりわけ「ブラウンフィールド」の定義と再生政策の方針の2点に着目して行った。定義では、土壌汚染に着目を置く国と既成市街地内の未利用地という点に着目を置く国に分かれた。再生政策の方針は、調査・評価→再開発計画規制の設定→荒廃の除去・再生された土地の長期的維持・コミュニティの支援→再生事業に対する信用と技術の向上という流れをもつ。その中で、時代とともにブラウンフィールドから負の要素を取り除くことから、それが市街地内部で果たす役割へと重点が変化している。再生事業の背景には、市街地の拡張を抑え既成市街地の再利用を進める政策があるが、公共主導の再生事業であっても事業収支が黒字になるのは立地等が優れた物件である。

【キーワード】 ブラウンフィールド、都市再生、土壌汚染、ヨーロッパ
【Key Word】 brownfield、urban regeneration、soil contamination、Europe

スウェーデンの住宅政策・住宅供給の近況

東洋大学 ライフデザイン学部 教授 水村 容子

 This article mainly explains the transformations underlying the gradual privatization and deregulation of Swedish housing policy after the mid of 1970’s. The housing has been one of the important integrant to shape the Swedish welfare state between 1930’s and 1980’s. However Swedish housing policy gradually shifted to privatization from the first of 1990’s, because of influence of neoliberalism and accession of EU. Currently Swedish housing policy functions to complement private housing markets, facing serious shortage of stock and degradation of quality of housing.

【キーワード】 スウェーデン、住宅政策、住宅供給、福祉国家、新自由主義
【Key Word】 Sweden, Housing Policy, Housing Supply, Welfare State, Neoliberalization

英国の不動産市場動向
-Brexitとロンドン五輪を通した不動産市場の分析-

一般財団法人日本不動産研究所 国際部 参事 伊藤 直孝
同 国際部 主席専門役 德田 真紀
同 研究部兼国際部 田中 梨奈子

本稿では、昨今の英国の不動産市場動向について調査するにあたり、Brexit、ロンドン五輪といった政治的・国際的なイベントを通したロンドンを中心とする不動産市場への影響を分析した。2016年以降のEU離脱に係る政治的混乱においても、ロンドンの国際金融の中心地としての地位は揺るぐことなく、不動産市場への打撃は懸念されていた程大きくなかった。2012年開催のロンドン五輪後においても、オリンピックレガシーが都市全体の発展へと寄与し、現在に至るまで不動産開発が見られた。これらのことから、英国の不動産市場の底堅さについて改めて認識することができた。今後も政治動向に注視は必要だが、更なる成長が期待されると考えられる。

【キーワード】 英国不動産、Brexit、ロンドン五輪
【Key Word】 UK Property、Brexit、The 2012 London Olympics

調査

田畑価格及び賃借料の動向
-2019年調査結果をふまえて-

松岡 利哉

2019年10月30日に「田畑価格及び賃借料調(2019年3月末現在)」を公表した。本稿では、公表した調査結果に加えて、その後分析した内容を紹介する。

【キーワード】田畑価格、田畑賃借料

山林素地及び山元立木価格の動向
-2019年調査結果をふまえて-

松岡 利哉

当研究所が2019年10月30日に公表した2019年3月末現在の「山林素地及び山元立木価格調」によると、山元立木価格は、3年連続の上昇基調を維持した。素材(丸太)需要の国産材シフトが継続し、B材(合板等用)・C材(木材チップ用)等の用材需要や燃料材需要が引き続き順調で下支えとなり、素材価格が底堅く推移したことによるとみられるが、収入面の主力であるA材(製材用)価格が伸び悩む状態が継続しており、用材林地の投資採算が好転するには至っていない状況である。
本稿では、「山林素地及び山元立木価格調」の調査結果に加えて、その後分析した内容を紹介する。

【キーワード】山林素地価格、山元立木価格、素材(丸太)価格

近年の中古マンション市場の動向と今後の展望
-「不動研住宅価格指数」の調査結果(2019年12月時点)をふまえて-

曹 雲珍

「不動研住宅価格指数」は、当初、2011年4月26日より株式会社東京証券取引所から「東証住宅価格指数」の名称で公表されたものであった。同指数は、2014年12月30日の公表をもって株式会社東京証券取引所が更新を終了することになり、その後日本不動産研究所が引き継いで、2015年1月27日から現在の名称で公表している。
2020年2月25日に公表した昨年12月時点の「不動研住宅価格指数」によると、首都圏は92.83ポイントで、2007年以降の最高値となった。地域別では、東京都は102.58ポイントで、2015年12月からミニバブル期の最高値である2007年10月の94.90ポイントを上回り、2018年に入ってからも概ね上昇傾向が続き、12月時点は2007年以降の最高値となった。神奈川県は86.27ポイント、千葉県は72.57ポイント、埼玉県では73.86ポイントとなった。

【キーワード】住宅価格指数、リピート・セールス法、中古マンション、市場動向

論考

米国の土地収用関連評価のLarger Parcel概念について

松尾 俊輔・藤木 一彦

本稿では、米国の土地収用関連評価で必要不可欠な概念であるLarger Parcelを概観する。本稿の作成にあたっては、文献や判例とともに米国不動産鑑定人との面談内容を参考にした。

【キーワード】米国、土地収用、補償、不動産鑑定評価、Larger Parcel

The Appraisal Journal Fall 2019

外国鑑定理論実務研究会

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