不動産研究 63-1

第63巻第1号(令和3年1月) 特集:テクノロジーと不動産

一覧へ戻る

第63巻第1号

新しい年を迎えて

特集:テクノロジーと不動産

「不動産テック」とPropTechの現在地
-価格分析の高度化と多様性の向上の可能性-

東京大学大学院 経済学研究科特任教授特任教授 武藤 祥郎

「不動産テック」は、我が国の不動産市場において大きな影響をもたらすと見られてきたが、その源流は欧米の“PropTech”にある。一方で、PropTechは、価格等の不動産に係る分析のみならず、不動産の運営管理、IoTなどを含めて多様な様相を呈するのに対して、我が国の「不動産テック」は価格分析などに集中するほか、海外におけるプレゼンスは現時点で大きいとは言えない。
今後は、本年4月に設立された東京大学連携研究機構「不動産イノベーション研究センター(CREI)」などを一つ舞台としながら、AI等を活用した価格分析の高度化、不動産新技術の多様化などに貢献していきたい。

【キーワード】不動産新技術、AI・IoT、価格分析
【Key Word】PropTech, AI/IoT, Price Analysis

データ連携による不動産リスク情報の可視化
-オンライン情報サービスの新業態-

エステートテクノロジーズ株式会社 澤 博史 池上 俊介 仙田 雅大
東京大学 工学系研究科教授 大澤 幸生

不動産価値を評価するための潜在的な説明変数を重要視する見地から不動産業務を支援するためのデータ連携の位置づけを検討し、今後において必要となる考え方とその具体的な方法について提言する。特に、ここではオンライン化された不動産の価格およびその割高感・割安感を示す提示システムを例として挙げ、データと、道具としての人工知能(AI)の役割を考察する。

【キーワード】潜在変数、データ連携、人工知能
【Key Word】Latent variables, data integration, artificial intelligence

AIがもたらす不動産業界におけるユーザー体験(UX)変革の可能性

株式会社LIFULL AI戦略室 主席研究員 清田 陽司

さまざまな業界に生産性や付加価値の向上をもたらしている優れたユーザー体験(UX)の普及は、不動産業界においても重要な課題となっている。本稿では、近年飛躍的に発展している人工知能(AI)を構成する技術群に着目し、今後不動産p業界において創出が期待されるUXを俯瞰した上で、画像メディア技術やIoT環境センシング技術により創出されているUXの事例を紹介する。また、優れたUXを不動産業界内に広く浸透させるための課題についての議論を示す。

【キーワード】人工知能、ユーザー体験、深層学習、IoT
【Key Word】artificial intelligence, user experience, deep learning, IoT

BIMを用いた建物の価値評価に係る一考察

一般財団法人日本不動産研究所 東海支社 総務部 立石 正則
一般財団法人日本不動産研究所 本社事業部 柴田 奈央
一般財団法人日本不動産研究所 研究部 大浦 悠都

As a tool for the management of building whole-life costs, BIM( Building Information Modeling) has been drawing attention in the business and academic circles. In this paper, we first review the global trend of BIM and introduce some trial examples of BIM implementation in building lifecycle management. Secondly, we focus on the current status of BIM implementation and the value of a building managed by BIM, considering the BIM guideline released in March 2020. Lastly, we discuss spatial information associated with BIM, which is the key factor in the real estate appraisal, and a possible use of spatial information for built environment assessment.

【キーワード】 国際的なBIM の潮流、ファシリティマネジメントとBIM、BIM 標準ガイドラインと不動産鑑定機関の役割、BIM 時代の建物価値、空間情報の可能性、環境性能とBIM

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(2020年9月末現在)をふまえて-

平井 昌子

当研究所は2020年9月末現在の「市街地価格指数」を2020年11月25日に公表した。
「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2020年3月末比、以下同じ)▲0.3%となり、これまでの上昇傾向から下落に転じた。
  • 地方別の地価動向は、昨年まで観光インバウンド需要等を背景に地価は堅調に推移していた地方では、新型コロナウイルス感染症の影響による観光客の減少や経済活動の自粛等によって地価上昇は止まり、下落に転じる結果となった。また、「北陸地方」や「四国地方」は、昨年、ようやく長期にわたる下落から回復の兆しがみられたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、再び下落基調が続いている。
  • 三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、昨年までの上昇傾向から一転、「東京圏」は前期比0.0%横ばい、「大阪圏」は同0.2%下落、「名古屋圏」は同0.7%下落となった。
  • 「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比0.1%下落、商業地で同0.7%下落、住宅地で同0.0%横ばい、工業地で同2.1%上昇となり、工業地については上昇傾向が継続している。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について
-「全国賃料統計」の調査結果(2020年9月末現在)をふまえて-

富繁 勝己

当研究所は2020年9月末時点の「全国賃料統計」を11月25日に公表した。オフィス賃料は、調査地点の約2/3の地点が横ばいとなり、全国平均は0.9%上昇と上昇幅が大幅に縮小した。新型コロナ感染拡大などの影響により、主要都市の空室率は、上昇傾向にあるものの多くの都市で3%台の空室率で依然として低い水準にあり、賃料の下落の動きはあまり見られず、横ばいとなっている地点が多い状況である。共同住宅賃料は、調査地点の約9割が横ばいで、賃料指数の全国平均は前年と同じ99.5で横ばいだった。1年後の2021年9月末時点についてオフィス賃料は多くの都市で横ばい傾向となり全国平均は0.1%上昇、共同住宅賃料は全国平均で0.0%の横ばいとなる見通しである。

【キーワード】全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測
(2020~2025年)・2020秋について

金 東煥・富繁 勝己・佐野 洋輔

「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2020 ~ 2025年)・2020秋」を10月30日に公表した。賃料予測は、東京・大阪・名古屋のビジネス地区におけるオフィス賃貸の成約事例に基づいて、ヘドニック型の賃料指数を作成し、実質GDP等マクロ経済指標を含むオフィス賃料予測モデルを構築して、2020 ~ 2025年の賃料及び空室率の動向を予測した。予測結果は、①東京のオフィス賃料は、新型コロナによるマイナス影響があるが、2020年の新規大量供給の多くが事前に内定される等の影響で賃料はほぼ横ばい、2021年からは企業業績停滞等が残って下落し続け、2025年から上昇する。②大阪のオフィス賃料は、2021年以降賃料下落が続き、2023年以降上昇する。③名古屋のオフィス賃料は、2021年以降賃料下落が続き、2025年わずかに上昇すると予測された。

【キーワード】賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

最近の不動産投資市場の動向
-第43回不動産投資家調査結果(2020年10月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

当研究所は、「第43回不動産投資家調査」の結果を2020年11月25日に公表した。 調査結果(2020年10月)の概要は以下のとおりである。

  • 今回調査では、新型コロナやそれを受けた新常態(ニューノーマル)の影響が鮮明となった。
    新型コロナ禍前までは、利回りの低下傾向が続いていたオフィスや住宅の期待利回りは、一部の調査地区で前回比0.1㌽低下したが、全体としては、前回比横ばいの地区が多くを占めた。また、都心型高級専門店の期待利回りも多くの地区で前回比横ばいであったが、「東京・銀座」では前回比0.1㌽上昇した。郊外型ショッピングセンターの期待利回りも前回比横ばいの地区が多くを占めた。一方、新型コロナによる新常態(ニューノーマル)で施設需要が伸びている物流施設は、「東京」を含む多くの地区で期待利回りが0.1 ~ 0.2㌽低下した。また観光インバウンドが長く市場を牽引してきたホテル(宿泊特化型)の期待利回りは、「東京」「札幌」「福岡」「那覇」で前回比0.1㌽上昇した。
  • 不動産投資家の今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」が92%で前回調査よりも6㌽上昇した。一方、「当面、新規投資を控える」の回答は11%で前回調査より7㌽低下した。前回調査では、緊急事態宣言や社会経済活動の自粛等により、不動産投資家の新規投資意欲が減退した。今回調査では、ホテルや都心型商業施設の一部で期待利回りが上昇するなどの慎重な見方も見えるが、金融緩和等に支えられ、全体としては不動産投資家の積極的な投資姿勢が強まった。

【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

全国のオフィスビルストックの状況
-「全国オフィスビル調査(2019年1月現在)」の結果をふまえて-

富繁 勝己

日本不動産研究所は、2020年1月に全国オフィスビル調査を実施し、2020年10月28日に結果を 公表した。主なポイントは以下の通りである。

  • 2020年1月現在のオフィスビルストックは、全都市計で13,021万㎡(10,586棟)となった。このうち2019年の新築は133万㎡(72棟)、2019年の取壊しは81万㎡(83棟)であった。今後3年間(2020 〜2022年)のオフィスビルの竣工予定は505万㎡(147棟)で、そのうち東京区部が72%を占める。
  • 新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市計で3,181万㎡
    (3,010棟)と同ストックの24%を占める。都市別でみると、福岡(40%)、札幌(37%)、京都(35%)、広島(31%)、地方都市(31%)と続く。
  • 規模別ストック量をみると、10万㎡以上が東京区部で24%と突出して高い。逆に5千㎡未満は地方都市が22%と最も高い。築後年数別では、築10年未満が三大都市では10%を超えており主要都市・地方都市より築浅のビルの割合が大きい。また、建替候補となる築40年以上のビルの割合は東京区部では18%と他の都市に比べて少ない。

【キーワード】全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊

論考

2021年の不動産市場
-マクロ経済動向から占う不動産市場の見通し-

吉野 薫

2020年、世界は新型コロナウイルス感染症という未曾有の危機に直面した。世界および日本の経済情勢が一変し、すでに我が国の不動産市場への悪影響も顕在化している。今後も経済活動の低調が一定程度持続するものと見込まれる中、当面の不動産市況は調整局面となることが避けがたい。もっとも、コロナ禍以前の不動産市場の活況においてバブルが形成されていた訳ではない。また金融・資本市場が安定性を保っており、金融仲介機能は損なわれていない。したがって、2021年を通じて不動産市況が悪化するにせよ、その度合は苛烈なものとはなりえず、秩序だったサイクルに沿った下降トレンドを辿ることになるだろう。

【キーワード】適温相場、企業の設備投資、消費税率の引き上げ
【Key Word】Goldilocks, capital investment, consumption tax rate hike

「アメリカ不動産鑑定評価論」第15版の主要改訂内容と日本の実務への示唆

德田 真紀 安藤 大河 鈴木 祥華 児玉 愛 藤木 一彦

2019年を振り返ると、景気の足踏み感が顕著であったものの、不動産市場において特段の変調はみられなかった。内需が底堅さをみせるもとで不動産市況は安定的に推移し、特に地方圏におけるオフィス市場の引き締まりが印象的であった。ここ数年来の「適温相場」が継続したと総括することができる。2020年を見通してみると、市況の過熱化などには十分な留意が必要であるが、これまでのところ不動産市場における変調の兆候は観察されず、引き続き「適温相場」が継続する公算が高い。

【キーワード】新型コロナウイルス感染症、企業の設備投資、雇用マインド、金融仲介機能
【Key Word】Covid-19, capital investment, employment confidence, financial intermediary function

The Appraisal Journal Summer 2020

外国鑑定理論実務研究会

不動研だより

研究部長兼国際部長 山下 誠之

不動研アジア・パシフィック社 マネージングディレクター 福山 雄次

資料

・2020(令和2)年[第62巻第1号~第62巻第4号]目次一覧

レポート/刊行物一覧へ戻る