不動産研究 65-1

第65巻第1号(令和5年1月) 特集:DX(デジタルトランスフォーメーション)と不動産

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第65巻第1号

新しい年を迎えて

特集:DX(デジタルトランスフォーメーション)と不動産

宅地建物取引業法改正による書面の電子化の推進について
-不動産取引のオンライン化を推進するための取組-

国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課長 三浦 逸広

不動産取引のオンライン化は、平成25年の世界最先端IT国家創造宣言を受け、順次進められてきました。IT重要事項説明については、社会実験等を踏まえ、宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方において、対面で行う重要事項説明と同様に取り扱うものと明確化し、賃貸取引については平成29年10月より、売買取引については令和3年3月より本格運用が開始されました。書面の電子化については、昨年、宅地建物取引業法が改正され、社会実験等を踏まえ、「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」を公表の上、令和4年5月18日から施行されました。国土交通省としては、不動産業の生産性の向上とともに、国民生活の利便性を向上させる取組を一層進めて参ります。

【キーワード】不動産取引のオンライン化、宅地建物取引業法改正、IT 重要事項説明

ストリートビュー画像を用いた景観の指標化
-不動産価値評価への活用可能性-
Capturing Landscape through Street View Images
-Potential for Use in Real Estate Valuation-

一橋大学 ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター 特任准教授 鈴木 雅智

DXが推進される中で不動産データの利活用が広がっている。不動産価値評価では、ストリートビュー画像を大規模に収集し画像認識のAI技術を組み合わせることで、「景観」という視覚情報を活用できる。本稿では、国際的な研究動向を整理した上で、東京圏郊外の低層住宅地において都市景観と不動産価格との関係を分析した研究を紹介する。画像から捉えられる視覚情報は、周辺地区全体の景観を表す場合と、街路レベルの景観を表す場合があり、後者は地区固有の効果をコントロールした後に捉えられる。緑・植栽、開放性、視覚的な囲まれ感は、街路レベルの不動産価格と正の相関がみられた。電柱の存在は地区レベルで不動産価格と負の相関がみられるが、住宅地を不連続にする路肩・駐車スペースや農地の存在は不動産価格と負の相関をもたない傾向がみられた。

【キーワード】景観評価、ヘドニック分析、ストリートビュー、画像認識、機械学習
【Key Word】Landscape valuation, Hedonic regression analysis, Street view, Image recognition, Machine learning

続・米国不動産テックの攻防
-不動産業界はディスラプトされたのか-
The Battle for U.S. PropTech, Part 2
-Has the real estate industry been disrupted?-

三井不動産株式会社 開発企画部 北崎 朋希

2010年代後半、ソフトバンク・ビジョン・ファンドがフレキシブルオフィス運営大手WeWork,デジタル住宅仲介大手Compass, 買取再販ビジネス大手Opendoorなどに数十億ドルの巨額投資を行ったことで、日本でも不動産テックに大きな注目が集まった。米国において金融業界に次いで市場規模が大きい不動産業界は、長年積み重ねられた商慣習の妨げによってデジタルが遅れており、テクノロジーを武器とする起業家や投資家にとって垂涎の的であった。2020年に発生したパンデミックを乗り越えて各社は上場を果たしたが、株式市場の低迷もあって株価は落ち込んでおり、業界秩序を破壊すると持て囃されたビジネスモデルに懐疑的な見方が広がっている。本稿では、不動産研究(2019年4月号)に掲載された拙稿の続編として、米国不動産テックの最新動向を概観し、米国不動産業界とテクノロジーの見通しを論じるものである。

【キーワード】不動産テック、フレキシブルオフィス、住宅仲介、買取再販、不動産管理
【Key Word】 PropTech, Flexible Office, Housing Brokerage, iBuyers, Property Management

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(2022年9月末現在)をふまえて-

平井 昌子

当研究所は2022年9月末現在の「市街地価格指数」を2022年11月25日に公表した。
 「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2022年3月末比、以下同じ)0.4%、2022年3月末調査に続き上昇となった。
  • 地方別の地価動向は、総じて回復傾向が続いた。
  • 三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、「東京圏」は前期比1.1%上昇、「大阪圏」は同0.5%上昇、「名古屋圏」は同0.5%上昇となり、前期に続き回復傾向となった。
  • 「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比1.3%上昇、商業地で同1.1%上昇、住宅地で同1.2%上昇、工業地で同2.6%上昇となった。各用途区分で上昇が続いた。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
 最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
 東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
 大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
 名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
 六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、地価下落

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について
-「全国賃料統計」の調査結果(2022年9月末現在)をふまえて-

曹 雲珍

当研究所は2022年9月末時点の「全国賃料統計」を11月25日に公表した。オフィス賃料は、調査地点の約7割が前年から横ばいであるが、東京圏と大阪圏で前年から下落傾向が続いており、全国平均も2年連続下落となった。地方別では、北海道地方、九州地方がともに0.9%上昇したが、その他の地方は横ばいもしくは下落となった。共同住宅賃料は、調査地点の8割強が前年から横ばいであるが、東京圏と大阪圏等での連続上昇を受け、全国平均も2年連続上昇となった。地方別では、中部・東海地方と四国地方を除いて横ばいもしくは上昇となった。1年後の2023年9月末時点についてオフィス賃料は多くの都市が横ばいの中、東京圏と大阪圏では下落が続き、全国平均は0.5%下落、共同住宅賃料は全国平均で0.4%の上昇と予想している。

【キーワード】全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向

最近の不動産投資市場の動向
-第47回不動産投資家調査結果(2022年10月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

当研究所は、「第47回不動産投資家調査」の結果を2022年11月25日に公表した。  調査結果(2022年10月)の概要は以下のとおりである。

  • オフィスは、「東京・丸の内、大手町」の期待利回りが0.1㌽低下し、1999年の本調査開始以来の最も低い水準を更新した。また、今回調査では、その他の東京のオフィスエリアや地方都市でも期待利回りが低下する地区が多かった。米国FRBの金融引き締めの影響により世界的に金利上昇の局面にあるが、国内では緩和的な金融政策が維持されていることや東京都心で注目度の高い大型の取引があったことなどが不動産投資家の期待利回りの低下に影響した。住宅は、「東京・城南」のワンルームタイプが前回比で0.1ポイント低下し、本調査開始以来、初めて4%を下回った。また、住宅の期待利回りの低下は多くの地方都市でもみられた。商業店舗は、都心型高級専門店・郊外型SCともに前回比で「低下」と「横ばい」とが混在した。物流施設は、コロナ禍やeコマース進展の影響で、前回同様、多くの地区で期待利回りが低下した。ホテルは、行動制限や水際対策の緩和を背景とした観光需要の回復期待などから「東京」や「札幌」「仙台」「京都」「福岡」などで期待利回りが0.1㌽低下した(ホテルの期待利回り低下は1年ぶり)。
  • 今後については、「新規投資を積極的に行う。」という回答が95%で前回よりも1㌽上昇した。国内の緩和的な金融環境を背景に、全体としては不動産投資家の積極的な投資姿勢が維持された。

【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

全国のオフィスビルストックの状況
-「全国オフィスビル調査(2022年1月現在)」の結果をふまえて-

富繁 勝己

日本不動産研究所は、2022年1月に全国オフィスビル調査を実施し、2022年10月7日に結果を公表した。主なポイントは以下のとおりである。

  • 2022年1月現在の調査対象のオフィスビルストックは、全都市計で13,287万㎡(10,581棟)となった。このうち2021年の新築は156万㎡(72棟)、2021年の取壊しは83万㎡(85棟)であった。今後3年間(2022 ~ 2024年)のオフィスビルの竣工予定は542万㎡(185棟)で、そのうち東京区部が64%を占める。
  • 新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市計で3,043万㎡(2,868棟)とストック全体の23%を占める。都市別でみると、福岡(36%)、札幌(35%)、京都(35%)、大阪(29%)、神戸(29%)、広島(29%)、地方都市(29%)と続く。
  • 規模別ストック量をみると、10万㎡以上のビルが東京区部で26%と突出して高い。逆に5千㎡未満は地方都市が21%と最も高い。築後年数別では、築10年未満のビルが三大都市では10%を超えており、主要都市・地方都市より築浅のビルの割合が大きい。また、建替候補となる築40年以上のビルの割合は、建替が進んでいる東京区部では20%と他の都市に比べて少ない。

【キーワード】全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊し

論考

2023年の不動産市場
-マクロ経済動向から占う不動産市場の見通し-
Japan’s Real Estate Market Conditions in 2023
-An Outlook from Macroeconomic Perspective-

吉野 薫

2022年の世界経済は地政学リスクの顕在化に端を発する物価高騰と金融引き締めによって急激な減速を余儀なくされた。国内には「悪い円安」としてその影響が及んだが、2022年を通じて実体経済はかろうじて持ちこたえた。不動産の実需も全般的には底堅かったが、一部のオフィス賃貸市場などでは市況の調整も見られた。不動産市場を巡る金融環境は依然として緩和的であり、地価の回復は一層鮮明となった。投資家も総じて高い物件取得意欲を維持している。2022年は売買市場の活況と一部賃貸市場の停滞というデカップリングが意識された一年であった。2023年に掛けても景気の下押し圧力が残存しており、賃貸市況の力強い回復・成長を実感できるような展開は見込み難い。その一方で緩和的な金融環境が継続する可能性は高く、売買市場と賃貸市場のデカップリング状態の継続がメインシナリオとなる。それでも物価の高進に伴う金融緩和縮小の可能性はもとより、金融政策の予見可能性自体が低下していることも含め、不動産市場参加者はこれまでにも増して金融環境の変化に敏感になる必要があるだろう。日本に先んじて物価・金利が上昇した諸外国における不動産市場の動向に着目することは、我が国の不動産市場の先行きを見通す上で有益となろう。

【キーワード】金融引き締め、企業の設備投資、投資意欲、デカップリング、インフレ期待
【Key Words】monetary tightening, capital investment, appetite for investment, decoupling, inflation expectations

不動研だより

海外不動産の評価・調査等の国際業務の取り組み

国際部 次長 斎藤 敬之

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