一般財団法人日本不動産研究所 不動産エコノミスト 吉野 薫
新型コロナウイルス感染症の蔓延から足かけ3年間の世界経済を振り返ると、感染拡大初期における各国の機動的な政策対応が奏功し、コロナ禍による実体経済に対する直接的な悪影響は当初の懸念よりも限定的に留まった。金融・資本市場の狼狽も長続きしなかった。2021年には世界の経済活動および経済政策の正常化が模索される局面に至ったとの認識も広がったが、2022年以降は地政学リスクの顕在化に端を発する物価の上昇と、それに伴う各国における急速な金融引き締めが世界経済の重石となっている。今後の世界経済を占う上では、物価の情勢、金融引き締めの副作用、財政再建のほか、世界平和の実現も着目すべきポイントとして挙げられる。
【キーワード】新型コロナウイルス感染症、『世界経済見通し』、インフレーション、金融引き締め、財政の健全性
【Key Word】 Covid-19, “World Economic Outlook”, Inflation, Monetary tightening, Fiscal soundness
一般財団法人日本不動産研究所 国際不動産調査研究会
2023年5月5日、WHOは新型コロナウイルス感染症に関する「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を3年3ヵ月ぶりに解除した。わが国では5月8日から感染症法上は季節性インフルエンザなどと同じ「5類感染症」に位置づけられ、各種行動制限についても撤廃された。マスク無しで外出している人の姿も徐々に増えてきており、アフターコロナの経済活動が常態化している。本稿では、新型コロナウイルス感染症を経た世界主要都市の不動産市場の現状について紹介する。
【キーワード】新型コロナ、不動産市場、ニューヨーク、ロンドン、北京、シンガポール、シドニー
平井 昌子
当研究所は2023年3月末現在の「市街地価格指数」を2023年5月30日に公表した。
「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。
①「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2022年9月末比、以下同じ)0.7%となり、2022年3月末調査で上昇に転じて以降、今期も上昇が続いた。
②地方別の地価動向は、総じて回復傾向が続いた。
③三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、「東京圏」は前期比1.7%上昇、「大阪圏」は同0.8%上昇、「名古屋圏」は同1.0%上昇となり、回復傾向が鮮明となった。
④「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比1.8%上昇、商業地で同1.8%上昇、住宅地で同1.8%上昇、工業地で同2.4%上昇となった。各用途区分で上昇が続いた。
※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸
【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、地価下落
岩指 良和
当研究所は、「第48回不動産投資家調査」の結果を2023年5月30日に公表した。
調査結果(2023年4月)の概要は以下のとおりである。
(1)期待利回りの動向は、アセット毎・地域毎に異なる結果となった。オフィスの期待利回りは「京都」と「広島」で0.1㌽低下したが、「東京・丸の内、大手町」をはじめとする多くの調査地区では前回比横ばいとなった。住宅は、「東京・城南」のワンルームタイプとファミリータイプが前回比で0.1㌽低下し、本調査開始以来最も低い水準を更新した。また、ファミリータイプの期待利回りの低下は多くの地方都市でもみられた。商業店舗は、コロナ禍の行動制限と水際対策の緩和により徐々に人流が戻ってきた「都心型高級専門店」のうち「銀座」の期待利回りが0.1㌽低下したが、それ以外の調査地区では前回比横ばいとなった。物流施設は、「東京(江東区)」で前回比0.1㌽低下し、本調査開始以来、初めて4.0%を下回ったものの、それ以外の調査地区では前回比横ばいとなった。ホテルは、行動制限や水際対策の緩和を背景とした観光需要の回復期待などから「札幌」「名古屋」「大阪」「那覇」で期待利回りが0.1㌽低下した。
(2)今後については、「新規投資を積極的に行う。」という回答が96%で前回よりも1㌽上昇した。大規模金融緩和政策の継続を背景に、不動産投資家の非常に積極的な投資姿勢が維持された。
【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲
近藤 共子
1972-73年頃、過剰流動性を背景に土地投機が全国に拡大した時期には、観光開発等を標榜し山林原野等が買い占められた一方、1960年代後半から住宅始め工場立地、インフラ整備等に伴う土地需要も大きく拡大していた。(その2)で、事例としてみた東北地方(本号)、中国地方(次号)においても、建設が進んでいた縦貫道、新幹線沿線周辺中心に買占めが進み、さらに、交通網整備に伴い広域的アクセスが向上した沿線外の景勝地等に広く及んだ。同時に、地方都市や郊外はじめ広範囲に住宅団地建設等が広がり、また、地方分散の流れの中で縦貫道IC周辺はじめ内陸部への工場立地も進んだ。こうした影響を受けた地域は、当時地価情報が把握されていた3大都市圏や地方の主要都市の範囲を大きく超えるものであった。
【キーワード】列島改造期、土地投機、山林原野、東北地方、中国地方
【Key Word】 land property boom, urbanisation, the remodeling of the Japanese archipelago
海外不動産市場研究会
資産ソリューション部 上席主幹 佐藤 裕人