国土交通省 住宅局 参事官(建築企画担当) 前田 亮
2015年に採択された「パリ協定」において、産業革命前からの世界の平均気温上昇を1.5℃未満に抑える努力をすること、そのために各国が温室効果ガスの削減目標を定めることなどが示された。これを受けて、我が国においても、「2050年カーボンニュートラルの実現」及び「2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減すること」を宣言している。
これらの国際公約を踏まえた住宅・建築物分野の目標として、「2050年にストック平均でZEH・ZEB水準の確保」「2030年度以降の新築についてZEH・ZEB水準の確保」「2025年度までの省エネ基準適合の義務化」を定めている。本稿では、これらの目標を達成するため、2022年6月に公布された改正建築物省エネ法(脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律)の概要を紹介する。
【キーワード】建築物省エネ法、省エネ基準適合義務化、住宅トップランナー制度、省エネ性能表示制度、再生可能エネルギー利用促進区域制度
一般財団法人日本不動産研究所 研究部 上席主幹 西岡 敏郎
本稿の目的は、英国及び欧州における脱炭素政策を、森林、木材、建築・不動産の分野に焦点を当て、その概観を示すことである。英国及び欧州は、世界において持続可能な社会の構築に係る脱炭素政策をリードし続けている。脱炭素政策は、社会のあらゆる場面に見られるが、ここでは脱炭素の中心的な役割を担う森林にまず着目し、森林から生産される木材(バイオマスエネルギー利用を含む)や森林において維持される生物多様性に係る政策をみたうえで、建築物/不動産分野への関係を考察し、英国及び欧州が、多くの課題を抱えながらも、脱炭素政策を次々に立案し実装してきた流れを把握するものである。
【キーワード】 持続可能性、脱炭素、森林、木材、エネルギー
【Key Word】 sustainability, decarbonization, forest, timber, energy
林野庁 林政部 木材産業課 木材製品技術室
近年、ESG投資等が拡大する中、建築分野では、木材の利用による、建築時のGHG排出削減や炭素貯蔵などカーボンニュートラルへの貢献、森林資源の循環利用への寄与、空間の快適性向上といった効果に対して期待が高まっている。このような建築物への木材利用による効果が建築分野のESG投資等において適切に評価されるよう、林野庁では、評価項目・評価方法を整理したガイダンスを令和6年3月に策定した。建築事業者等においては、個別の建築プロジェクトにおいて投資家等に対して木材利用の効果を訴求する際や、木材の調達に当たってESGの観点から求める対応について木材供給事業者と認識を共有する際などに本ガイダンスを活用いただくことを想定しており、林野庁では、本ガイダンスが幅広い関係者間の対話ツールとなることを期待している。
【キーワード】ESG 投資、木材利用、カーボンニュートラル、持続可能性、快適空間の実現
住友林業株式会社 木材建材事業本部 ソリューション営業部 LCAチーム シニアリーダー 掛上 恭
本稿では海外の建築業界が利用しているLCA評価ツールの状況、One Click LCA日本版、環境配慮型建物の普及促進への展望について紹介する。海外の建築用LCAツールはいずれもクラウドベースで、利用地域・算定範囲・費用など異なるが、共通の特徴として、BIM・EPD(1)・グリーンビルディング認証(LEEDなど)に連携可能なツールとなっている。One Click LCAは、日本の実情に合わせて原単位・初期設定値に日本に適したものを選定、入力支援用のツールを整備するなど、日本向けにカスタマイズして提供している。環境配慮型建築を普及促進していくためには、算定の利便性向上、EPDの充実、算定事例の充実、国や自治体による普及促進策など課題があるが、脱炭素化は総力戦であり、あらゆる手段を結集して取り組む必要がある。
【キーワード】建築、脱炭素、エンボディド・カーボン、ライフサイクルアセスメント、One Click LCA
【Key Word】 Building, Decarbonization, Embodied carbon, Life cycle assessment, One Click LCA
株式会社三菱UFJ銀行 ソリューションプロダクツ部 部長(不動産ファイナンス担当) 宮崎 裕和
サステナブルビジネス部 調査役 森井 淳紀
三菱UFJフィナンシャル・グループは、社会課題解決への貢献を経営戦略と一体化させ、サステナビリティ経営を強化している。不動産ファイナンス領域では、「Sustainableな未来を不動産で切り拓く」と掲げ、不動産を通じた社会課題の解決を最重要テーマの1つに据えている。E(環境・脱炭素)面では、投融資ポートフォリオのGHG排出量削減への目標設定を実施。加えて、S(社会)面でも、「ALL-JAPAN観光立国ファンド」、「社会的インパクト不動産測定のためのKPI整備」をはじめ、金融機関の立場から不動産セクターでのESG課題解決に向けた取組みを目指している。
【キーワード】エンゲージメント、サステナブルファイナンス、観光立国、地域創生
近藤 共子
20世紀を通じて、大都市中心に土地騰貴は繰り返されてきたが、1930年代半ばから40年代前半、軍需工業の立地する都市を中心に、地価高騰は全国的に広がっていた。1937年より継続して調査が行われている市街地価格指数は、戦前戦後を通じて約90年間の、全国の主要都市の宅地価格の動きを記録してきた。市制の敷かれた主要都市に限られるものの、これに基づき、戦時期の土地騰貴もまた、戦後の主要な土地騰貴と比較し、その実情や影響をみることが一定程度可能である。
【キーワード】地価高騰、インフレ、市街地価格指数、地方都市開発、軍需工業
【Key Word】land property boom, inflation, urban land price index, regional development, munitions industry
企画部 上席主幹・弁護士 大竹 良和
金融ソリューション部 次長 横尾 崇尚