地域自身が決めた豊洲らしい将来ビジョンを自分たちの責任で実現した

Vol4. 民間主役の自律的で質の高いまちづくりによる地域再生の推進

Vol4. 民間主役の自律的で質の高いまちづくりによる地域再生の推進

株式会社日本都市総合研究所 顧問 鳥栖 那智夫 氏

2.12 UPDATE

3. 地域自身が決めた豊洲らしい将来ビジョンを自分たちの責任で実現した

自律的な協議型まちづくりによる質の高い地域再生―豊洲らしさの創出システム

 豊洲地区の再生を特色づけるものとして、地権者等による協議会の立ち上げ、豊洲固有のまちづくりガイドラインの策定、全員同意型の協議会運営があげられ、質の高い地域再生を実現した豊洲固有のまちづくりの仕組みとして評価されよう。

1) 再生の推進力となったまちづくり協議会

<地権者全員参加、共同責任型の協議会>

再生に向けたまちづくりは全地権者による協議会の立ち上げから始まった。
・東京都のまちづくり方針に基づき設置されたものであるが、豊洲にふさわしい質の高さを実現するために地権者(借地権者含む)全員参加を定め、その後の地権者の増加に備えた。
・2002年の当初はIHI、芝浦工業大学、UR都市機構の3社、その後7社に増え、現在は12社になっている。

協議会はまちづくりに関わる全てに関与し、全員の協議・調整を経てまちの総意をつくり、全員が従う。 
 質の高いまちにするために、各地権者が行う建設事業について自他の区別なく意見を述べ、全員で協議し、調整することで目指すまちに近づき、質の高い地域再生の実現を図っている。
全地権者が相互に質の高いまちづくりを意識し、まちづくり全体に実質的に責任をもつ構造はわが国では例が少ない。これは、IHIの姿勢とその後の土地のリリースの仕方によるところが大きく、これは多数の既存地権者をまとめる再生事業では難しい。

法的な影響力も活用して、実行力を高めている。
 この仕組みの実効性を確保するために、まちづくり協議会への入会とガイドラインの尊守については、土地売買契約書や宅地建物取引事業法の重要事項説明書に記載して周知することを行っている。

協議会はまちづくりの推進役として多様な役割を担ってきている。
 協議会の基本的な目的は本地区開発プロジェクト実施にあたり、豊洲地区全体の迅速な対応や統一的な街並みの形成であり、そのために関係方面との協議・調整に始まり、まちづくりガイドラインの策定とその運用を通じて、地区全体で調和のとれた質の高い都市空間の形成を図ってきている。
また、開発後の地区マネジメントなども行って、地区コミュニティの結びつきを強め、地元住民、テナント、地元企業と協働してまちの魅力を高めていくことを目指している。

活発な協議会の活動を通じて新しい地区コミュニィティの芯が生まれ、今後もまちづくりの中心になることが期待される。
 この10年ほどの間に非常に密度の濃い協議会活動が数多く重ねられ、概成した現在でも2週間に1度の頻度で、情報交換や意見交換などが行われ、まちづくりに対する活発な動きを止めていない。その理由の一つとして、協議会メンバーはすべて地権者(含む借地権者)であり、まちづくりの影響を避けられない運命にあるので、まちづくりに真剣にならざるを得ないことがある。
実はそれが狙いでこの協議会の方式を編み出したとさえ勘ぐりたくなる。

 その結果、地権者の間に一種の共同体意識の芽生えが感じられ、地区コミュニティを支えていく柱になることが考えられる。そうなれば、工場跡地から活気ある地域社会が生まれると言う地域再生の最大の目的に近づくことになり、再生は成功と言うことになる。

自分たちのまちを愛する地域再生のシステム ⇒ 持続可能なまちへ
 参加と協働によって生み、育てていく運命共同体的なまちとして、持続可能なまちへと更に成長・成熟していくことが期待される。

まちづくり協議会の仕組み

2)「まちづくりガイドライン」が豊洲らしい質の高い空間を生み出す基となった

 東京都のまちづくり方針を受けて、「豊洲2・3丁目地区まちづくりガイドライン」が平成14年に協議会の手によって策定され、自分たちの目指すべきまちづくりと協議会運用の具体的な拠り所となった。

(1)ガイドラインに掲げられた質の高いまちづくり
〇 地域再生を目指す開発コンセプト
新・産業マザーランド <産業をキーコンセプトとする新しいまちづくり> 
・21世紀東京の活力と「知」の産業を育むまちづくり
・産業の地としての歴史を地域の個性に活かすまちづくり
・産業技術を都市環境づくりに活かすまちづくり
をコンセプトとして掲げているが、まちとしては複合市街地である。

〇 コンセプトを優れた都市空間づくりへ展開
・都市空間形成の基本目標―全体に調和のとれた都市空間
・環境デザインに関わる開発誘導の基本的考え方
を具体的に示し、水辺の自然や造船所の産業遺構を活かした質の高い環境をもつまちへと再生するガイドラインとなっている。

〇 豊洲らしさを示す踏み込んだ内容
・建築物等の新築・増改築及び外装等の改修(含 暫定利用建築物)
・屋外空間の整備・改変(外構・駐車場整備など)
などを対象とし、協議会での調整を前提に商業、業務地区としては踏み込んだ内容になっているが、質の高い空間を再生する意図が覗える。
この結果、質の高い空間、活動が出現し、再生の趣旨に応えている。

(2)調和のとれたまちを目指し、豊洲らしさの具体化に向けたきめの細かい内容
 ガイドラインの具体的内容については、開発コンセプトから都市空間、景観に関わる領域について、公共用地、私有地の境界を越えて、調和のとれた総合性のあるまちづくりを目指して策定されている。
結果調和的なまちづくりと言うよりはマスターデザインによるまちづくりに近い面も感じられるが、それは協議会の構成員の総意によるものと理解すれば、それも「豊洲らしさ」につながるものと考えられる。

 本ガイドラインの特色は、空間デザイン、環境デザインについて極めてきめ細かく策定されていることである。
長期にわたりまちづくりの柱となるガイドラインは空間の質の維持、向上のために、明確に規定しておくことが望ましいが、本ガイドラインはこの点では、あまり例を見ないきめの細かさで策定されており、質の高い地域再生を求める「豊洲らしさ」を示すガイドラインと言えよう。

<豊洲2・3丁目地区まちづくりガイドラインの例示>

豊洲2・3丁目地区まちづくり協議会 TOYOSU Project